すばらしき日々 まず感想

先日の見てきた「ワンダフルデイズ」ですが、背景美術を使わずにミニチュアと2Dの合成で映像的になかなか面白い画面を作ってたのですが、理解に苦しむ構成と、凝った画面を見せること意識しすぎたカットつなぎで映画的には進歩の余地が多い作品でした。
後の質問でキム監督が15年以上もCMの仕事をされていて、今回が初めての監督ということを聞いて納得しました。実際ツッコミところ満載で、帰り道と夕食に寄った喫茶店で2時間以上も話がつきませんでしたよ(笑)企画、構成力と演出力がこれからの課題なのではないでしょうか。


気になる作画についてなんですが、基本的に絵は上手いです。動画はアクション系の作画は良かったですね。布のを使った風の表現なんかもなかなか。基本的には今の日本のアニメに近い作画なんですが、時々突然ディズニー調の歩きになるところがあって、少し昔の日本のアニメ(テレコムとか)を見ているような気分になる部分もありました。別に悪い事ではありませんが。演出的な部分かもしれませんが、銃を持ちながら走るカットとかところどころ不自然な部分も見られました。やっぱり歩きや走りといった基本的な動作や、日常芝居的な部分は荒い部分が目立ってしまいますね。


実は自分が大きく気になったのがエフェクトなんですが、爆発後の煙が膨らむだけ膨らんでフェードアウトで消えてしまうんですよ。冷凍庫の中で人が吐いた息はちゃんと消えているのに。作品の性質上リアリティのある作画が求められたのだと思いますが、やっぱり動きに対する気持ち良さを感じるような画面はまだ見られませんね。これからに期待します。

すばらしき日々 質疑応答

山賀社長とキム監督にしてきた質問です。
山賀社長からは人を口で使ってきた人独特のオーラが出てたので用心して望みました。

質問①
自分達日本のアニメファンは、韓国のアニメに触れる機会は日韓共同制作か、韓国グロス回でしか見る機会が無く、あまり韓国のアニメーターについて知りません。今回のアニメ映画では韓国でどのぐらいのレベルのアニメーターをどのようにして集めたのか?また、どのぐらいの期間を制作に使えたか? 

まず山賀社長からのコメント

「日本のアニメファンは韓国出しが下手だと思い込んでるが、そんなことは無い。下手に日本で出すより韓国便に乗せた方が良い場合もある。20年前からこれは変わってない。」 

これは仰るとおりだと思います。動画の韓国出し優秀だと思いますし、原画としても悪くないと思います。アクエリオンなんか見てると、韓国回でもなかなか良い動きしてるカットはかなり見られましたね。ただ向こうは絵柄に少しクセがあるので、日本のキャラクターを使う場合、作画監督を日本で別に立てなければならない場合が今のところ多く見られます。絵の違いが画面になって現れてしまうと、日本の一部のファンが「作画崩れ」と騒ぐことになってしまうんですね。(原画から本当にまずい場合もありますが、それは日本も同じ)

キム監督からの回答

「韓国のアニメーション映画事業はまだ生まれたてで〜…(よくある話で忘れました)」 

「日本の下請けをずっとやってきている韓国でも一番上手い人達に監督が直接声をかけて集めた。アニメーターのリストのようなものがないので一人一人声をかけて地道に集めることになった。彼らには一番安い賃金で、一番長く働いてもらった。」「制作期間はミニチュア制作から開始して5年。ラストの血が噴出すシーンでは、最も美しい血しぶきを描く為に、描いたものを色々な人に見せ、軌道修正を繰り返し、誰もが良いと思うものに仕上げるまで3ヶ月を要した。」

今回の公開の規模を考えるとベストに近いアニメーターが集まっているというのは容易に考えられましたが、韓国アニメのレベルの上限を知るということでちゃんと聞いてみました。求められる作画の傾向から考えると、日本でいうところの「イノセンス」のようなものでしょうか。


日本の劇場アニメ制作においては、監督が自らの人脈でキーになるアニメーターを集め、集められたアニメーターの人脈からまた色々な人が集まるという構図が見られるのですが、これは韓国でも基本的に変わらないようです。ただ、キム監督がこれまでの仕事でどれだけの人脈ができているのか、また韓国ではアニメーター同士のつながりでどれだけ集まってくるのかは不明なので、一概にトップクラスが集まったとは言えませんが、画面の印象では上手い人が集まっていると思えました。劇場アニメの原画作業に充分な時間をかけられるというのは、フリーで色々な仕事を並行してやらねければならない日本の一般の劇場アニメから制作見ると羨ましいことでしょう。出来た原画を演出以外の色々な人に見せてその賛否を問うというのはなかなか面白いですね。確かに印象的なシーンになっていました。

質問②
今回の日本配給で、日本の中でもトップアニメーターを抱えるガイナックスの山賀社長とつながりができたが、これからも作品の共同制作や下請けなどの形で一緒に仕事をしていくことはお互い考えているか? 

山賀社長から

「もちろん、今回限りの関係では終わらせない。自分がプロデューサーとして、キム監督と関わることもこれからあるかもしれない。それが手書きのアニメであるかCGであるかはわからないが。今回キム監督から韓国の上手いアニメーターを紹介してもらったので、今回の公開を考えてもオツリがくるぐらいである。」 

キム監督から

「山賀さんは飲み友達なので、一緒に飲むためには一緒に仕事をしなければならない。つまり作品を作らなければならない」 

今回の公開に関して色々疑問に思うところがあったのですが、これは思ったとおりの答えが聞けました。今回の公開によってできたつながりで、キム監督が今回その足で作った上手いアニメーターの人脈をガイナックスが使うことができるようになったということは、日本で上手い人の奪い合いをしなくても、韓国の上手い人をピックアップして使えるということ。これはガイナックスにとってかなり大きいことなのではないかと思います。これは逆についても同じことで、キム監督制作の映画やCMなどでガイナックスのアニメーターが使われる可能性があるということ。韓国でのCM制作はすでに4℃の森本晃司さんがやられてますが、同じことがガイナックスにも起こり得るのではないかと。


「トップアニメーター」という言葉を使った意味については想像にまかせます。山賀社長も「トップアニメーター…」と苦笑いしてました。まぁ、「トップ(をねらえの)アニメーター」ということで(笑)

すばらしき日々 イベントとして

上映後のトークショーは、「韓流」「純愛」といったことを期待してきたオバサマ方は殆ど帰り、残った「いかにも」な人達が前に集められ、「ここにいらっしゃる皆さんはマンガ大好きな方ばかりと思いますが…」という司会者の挨拶で始まりました。迫力のある(無い)体型と「いかにも」な風貌の人は数年ぶりに見ましたよ。


トークショーSTVのラジオ「マンガチックにいこう」のプロモーションを兼ねて、女性アナウンサーと島本和彦さんが司会という形で進行したのですが、大阪芸大の同級である山賀さんと島本さんが二人で喋りすぎる。トークイベントとしては肝心の監督の話があまり聞けませんでした。質問時間も少なく、質問してもこの二人の会話で脱線してしまう。そのうちアナウンサーが質問を忘れて「制作費の話でしたっけ?」などとトンチキなことを言い出す始末。あっという間次の上映時間になってしまいトークショーは打ち切られました。イベントの進行としてはとしては正直イマイチでした。

すばらしき日々 とNSG

新潟での初回上映は山賀さんがマクロス後、新潟のシネウィンドで働いていた関係ではないかと書きましたが、新潟初回上映の秘密は実はそれだけでなありませんでした。クレジットの最後に出てきた「JAM 日本アニメマンガ専門学校」と「NSGグループ」の力もあったものだと思います。


「NSG」とは「新潟総合学院」の略で新潟で最王手の学校法人グループです。アルビレックス新潟のメインスポンサーでもあります。会長の池田弘さんとアルビ設立の話は確かマガジンで漫画化もされたはずなので知ってる人ももしかしたらいるのではないかと。「JAM」は新潟でのマンガアニメ事業の振興を目的に、NSGグループの中の「新潟デザイン専門学校」の「マンガアート科」を独立して2000年に設立されました。(当時はアニメ専攻はあっても、学科としてはありませんでした)現在ではI.G新潟やマジックバス新潟との結びつきもあるようです。声優も魔夜峰央、マジックバスと新潟つながりで「パタリロ西遊記」などに入れている模様。


今年新潟に帰省した際に、アーケード街にいきなりマンガとアニメ専門のライブラリーが出来ているのを見つけてびっくりしてしまいましたよ。当にいたれりつくせりの空間。就職後のことを考えるとこんなに恵まれてていいのか、と思ってしまうぐらいでした。中には100人収容と200人収容のシネマがあり、「ワンダフルデイズ」もここで内部上映された模様です。


関連:
・市民映画館シネウィンド
http://www.wingz.co.jp/cinewind/
・JAM 日本アニメマンガ専門学校
http://www.nsg.gr.jp/jam/
・NSGグループ
http://www.nsg.gr.jp/